この記事の結論(3行で)
- 常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医の選任が義務です。数えるのは「企業全体」ではなく「事業場ごと」で、パート・アルバイト・派遣社員も含みます。
- 50人以上になった日から14日以内に選任し、所轄の労働基準監督署へ選任報告を電子申請で行います。違反は50万円以下の罰金です。
- 50人未満は選任義務なし。ただし健康診断後の医師の意見聴取は義務で、2028年4月1日からはストレスチェックも義務化されます。
従業員が増えて50人が見えてきたとき、人事担当者が最初に直面するのが「産業医の選任」です。この記事では、選任義務の基準、手続きの流れ、怠った場合のリスク、そして産業医の探し方までをわかりやすく解説します。
カウントは「企業全体」ではなく「事業場ごと」。選任は義務発生から14日以内、労基署への報告までがセットです。
この記事の要点
| 選任が必要な規模 | 常時使用する労働者が50人以上の事業場(パート・アルバイトを含む) |
|---|---|
| 期限 | 選任すべき事由が発生した日から14日以内 |
| 届出 | 所轄の労働基準監督署へ選任報告を電子申請(2025年1月から義務化)。医師免許証の写しと資格を証する書面を添付 |
| 罰則 | 選任義務違反は50万円以下の罰金(労働安全衛生法第120条) |
| 50人未満の場合 | 選任義務はなし。医師等による健康管理の努力義務。2028年4月1日からはストレスチェックが義務化(令和8年政令第195号で施行日確定) |
選任義務の基準は「常時50人以上」
労働安全衛生法により、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医を選任しなければなりません。ポイントは「企業全体」ではなく「事業場ごと」に数えることと、週の所定労働時間が短いパート・アルバイトも、常態として使用していれば人数に含まれる場合があることです。本社50人未満でも、工場が50人以上なら工場に選任義務が生じます。
「常時使用する労働者」の数え方
「常時使用する労働者」は、正社員だけではありません。パート・アルバイト・契約社員のほか、日雇いなどの臨時的な労働者も含め、常態として使用している人数で数えます(昭和47年9月18日 基発第602号)。週の労働時間が短くても、継続的に雇っていれば1人と数えます。
- 派遣社員:派遣元・派遣先の双方で人数に含めます。産業医の選任や衛生委員会など事業場の安全衛生体制に関する義務は、派遣先も派遣労働者を含めて算定します。
- 出向者:出向先の指揮命令下で働く在籍出向者は、出向先の事業場で数えます。
- 役員:労働者ではないため含めません。ただし従業員としての身分も持つ兼務役員は、労働者として含めるのが一般的です。
- 50人ちょうど:「50人以上」なので、50人に達した時点で対象です。
人数の数え方の例
- 正社員38人+パート10人(週2〜3日勤務)+受け入れている派遣社員5人=53人。選任が必要です。
- 正社員42人+週1回勤務のアルバイト9人(継続して雇用)=51人。選任が必要です。
- 正社員46人+役員3人(従業員としての身分なし)+派遣社員2人=48人。役員は数えないため、選任義務はありません。
判断に迷いやすいケース
- 週1回しか出勤しないパート・アルバイト:継続して雇用し、常態として使用していれば人数に含めます。契約期間や週の労働時間の長さで決めるのではありません(厚生労働省「ストレスチェック制度関係 Q&A」Q0-13。同じ「常時50人以上」の数え方を説明したものです)。
- 繁忙期だけ人数が増える会社:ふだんは50人未満で、繁忙期だけ一時的に50人を超える場合は、常態として50人以上とはいえません。反対に、ふだん50人以上の事業場が一時的に下回っても、常態として50人以上であれば義務は続くと考えられます。
- 50人前後で増減を繰り返す会社:数え方に迷う場合は、所轄の労働基準監督署に確認するのが確実です。
「事業場」はどう区切るか
事業場は、原則として同じ場所で一体として業務を行う単位です。本社・支店・工場・営業所はそれぞれ別の事業場として数えます。一方、同じ敷地内でも業務内容が明確に異なり独立性のある部門は別事業場として扱われることがあり、逆に規模が著しく小さい出張所などは直近上位の事業場に含めて扱うのが通例です。判断に迷う場合は所轄の労働基準監督署に確認してください。
1,000人以上・有害業務500人以上は「専属」
常時1,000人以上の労働者を使用する事業場、または一定の有害業務に常時500人以上を従事させる事業場では、その事業場に専属の産業医が必要です。さらに常時3,000人を超える事業場では2人以上の選任が求められます。50〜999人の事業場では、非常勤の嘱託産業医で足ります。
選任は14日以内、労基署への報告まで必要
選任義務が発生した日から14日以内に産業医を選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署へ「産業医選任報告」を提出する必要があります。報告には産業医の医籍番号や産業医資格を証明する書類の写しが必要になるため、契約時に産業医から受け取っておきましょう。
選任しないとどうなる?
- 50万円以下の罰金(労働安全衛生法違反)
- 労働基準監督署の臨検(立入調査)時の是正勧告
- 従業員の労災・メンタルヘルス問題が起きた際、安全配慮義務違反を問われるリスクの増大
特に見落とされがちなのが3つ目です。産業医の不在は、健康障害が発生したときに「会社として必要な体制を整えていなかった」と評価される要因になります。
産業医がいないまま50人を超えてしまったら
「気づいたら50人を超えていた」「前の産業医が辞めて、しばらく空白になっている」というご相談は少なくありません。この状態で最も避けたいのは、選任の遅れを理由に、健康診断の事後措置や長時間労働者の面接指導まで止まってしまうことです。
- まず期限を確認する:常時50人以上になった日から14日以内が選任期限です。すでに超えている場合は、できるだけ早く選任して報告書を提出します。放置期間が長いほど、臨検時の是正勧告や安全配慮義務の面で不利になります。
- 止められない業務を先に手当てする:健康診断で異常所見のある従業員についての医師の意見聴取、長時間労働者からの申出による面接指導は、産業医がいなくても事業者の義務です。選任までの間はスポット契約の産業医や健診機関の医師に依頼します。なお、地域産業保健センターの無料サービスは50人未満の事業場が対象で、50人以上の事業場は原則として利用できません。
- 「早く決める」より「動く産業医を選ぶ」:焦って名義だけの契約をすると、衛生委員会も面談も機能せず、結局やり直しになります。次章の進め方に沿って、訪問・面談・衛生委員会出席まで実際に対応する産業医を選んでください。
すでに産業医はいるが機能していない、という場合は産業医の変更・交代の手順も参考にしてください。
50人以上で同時に発生するその他の義務
- ストレスチェックの年1回実施と労基署への報告
- 衛生委員会の設置(月1回開催)
- 衛生管理者の選任
- 定期健康診断結果報告書の提出
産業医の選任は、これらの体制づくりの中心になります。「50人を超えそう」という段階から準備を始めるのが現実的です。
50人未満なら、産業医は不要?
常時使用する労働者が50人未満の事業場には、産業医の選任義務はありません。ただし、医師などに労働者の健康管理を行わせる努力義務があります(労働安全衛生法13条の2)。また、次の3つは人数に関係なく会社の義務です。
- 健康診断後の医師の意見聴取:健診で異常の所見があった人について、健診実施日から3か月以内に医師の意見を聴きます。
- 長時間労働者への医師の面接指導:時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積がある人から申出があった場合に行います。
- ストレスチェック:2028年4月から、50人未満の事業場にも義務化されます。
産業医がいない会社がこれらに対応する方法は、主に3つあります。
- 地域産業保健センターを利用する:50人未満の事業場は、健康相談などを原則無料で利用できます。利用できる回数や時期は、各センターにご確認ください。
- 必要なときだけ医師に依頼する:面談や意見書はスポット産業医、健診後の意見聴取は健診結果の就業判定で、1回から依頼できます。
- 月額の顧問契約を結ぶ:当社では、50名未満の企業様向けに月額20,000〜50,000円(税別)の顧問プランをご用意しています。
ストレスチェックの義務化への備えは、50人未満事業場向けストレスチェックのご案内をご覧ください。
初めて産業医を選任するときの進め方(4ステップ)
選任義務が見えてきた企業が「何から始めればよいか」を、4つのステップに整理します。
ステップ1:事業場ごとの人数を確定する
前章の数え方で、拠点ごとに常時使用する労働者数を確定します。複数拠点がある企業では、拠点ごとに義務の有無が分かれます。50人に達する時期の見込みが立てば、その2〜3か月前から産業医探しを始めるのが現実的です。
ステップ2:産業医に何を依頼したいかを整理する
法令上の基本業務は、衛生委員会への出席、職場巡視(原則月1回)、健康診断後の事後措置、長時間労働者・高ストレス者への面接指導です。加えて近年は、メンタルヘルス不調者への対応や休職・復職判断の支援を重視する企業が増えています。自社で起きやすい健康課題(メンタル不調、生活習慣病、交替勤務による疲労など)を洗い出しておくと、産業医選びの軸がぶれません。
ステップ3:探し方と選び方
探し方は主に、(1)地域の医師会からの紹介、(2)産業医紹介サービスの利用、(3)産業医と直接契約、の3つです。どの経路でも、契約前に次の点を確認してください。
- 訪問頻度・面談体制が自社の実情に合っているか
- メンタルヘルス対応の経験があるか。精神科領域の臨床経験(例:精神保健指定医)があると、休職・復職の判断が安定します
- 人事・労務担当者が日常的に相談しやすいか(メール相談の可否など)
- 名義だけの契約ではなく、衛生委員会出席・職場巡視・面談まで実際に動くか
紹介サービスを使う場合の注意点は産業医紹介会社を使う前に知っておいてほしいこと、産業医の専門性の見方は産業医は「誰でも同じ」ではありませんにまとめています。
ステップ4:契約形態・料金・書面
契約形態は、月1回程度の訪問を基本とする嘱託契約が一般的です。費用は事業場の規模や訪問頻度により幅がありますが、50名規模の嘱託産業医で月額数万円台からが目安です(当社の場合、従業員50〜100名の事業所で月額6万円・税別。選任義務のない50名未満は月額2万〜5万円。詳細は料金ページ)。業務範囲(訪問頻度・面談件数・メール相談の有無)と料金を書面で確認したうえで契約してください。
産業医契約は法令対応のゴールではなくスタートです。選任後に衛生委員会や面談体制がきちんと機能するかが、職場の健康管理の質を左右します。初めての選任の全体像は初めて産業医を選任する企業の方へでもご案内しています。
産業医の選任義務でよくあるご質問
「常時50人以上」とは、どう数えますか?
正社員だけでなく、パート・アルバイトや日雇いなどの臨時的な労働者も含め、常態として使用している人数で数えます。繁忙期だけ一時的に50人を超える場合は対象外ですが、通常の状態で50人以上であれば選任義務が生じます。判断に迷う場合は所轄の労働基準監督署に確認するのが確実です。
従業員が50人未満でも、産業医は必要ですか?
選任義務はありませんが、労働安全衛生法上、医師等による労働者の健康管理を行う努力義務があります。また2028年4月からは、50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化され、高ストレス者への医師による面接指導が必要になります。地域産業保健センターの無料サービスや、産業医とのスポット契約で対応する方法があります。
50人を超えたら、いつまでに選任すればよいですか?
選任すべき事由が発生した日、つまり常時使用する労働者が50人以上になった日から14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署に産業医選任報告を提出します。
健康診断の結果について、50人未満でも医師の意見を聴く必要はありますか?
あります。健康診断で異常の所見があった労働者について医師の意見を聴くことは、事業場の規模にかかわらずすべての事業者の義務です。産業医がいない場合は、地域産業保健センターや健診機関の医師、スポット契約の産業医に依頼します。
産業医を選任しないと、どうなりますか?
労働安全衛生法違反として50万円以下の罰金の対象になります。実務上はまず労働基準監督署の指導・是正勧告が行われることが多いですが、健康診断の事後措置や長時間労働者の面接指導が実施できない状態が続くこと自体が、労務リスクとして大きな問題です。
派遣社員やパートは「常時50人」に含めますか?
パート・アルバイトは、週の労働時間が短くても、常態として使用していれば含めます。派遣社員も、派遣元・派遣先の双方で人数に含めて算定します。役員は労働者ではないため含めません。
複数の拠点を合計すると50人以上ですが、各拠点は50人未満です。選任は必要ですか?
産業医の選任義務は事業場ごとに判定するため、各事業場が50人未満であれば選任義務はありません。ただし、規模が著しく小さい出張所などは直近上位の事業場に含めて数える扱いがあるため、拠点の独立性に疑問がある場合は労働基準監督署に確認してください。なお50人未満の事業場でも、健康診断後の医師の意見聴取は義務で、2028年4月1日からはストレスチェックも義務化されます。
まとめ
産業医の選任は「50人到達から14日以内」というタイトなスケジュールです。人数が50人に近づいてきたら、2〜3か月前には候補探しと面談を始めておくと、慌てずに体制を整えられます。
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