健康診断の結果票で、人事が最も扱いに困るのが「心電図異常」と「血圧」の所見です。本人に「病院に行ってください」と伝えて終わりにしている会社は少なくありませんが、法令上はそれでは足りません。循環器の観点から、何が問題で、会社は何をすべきかを整理します。
「受診を勧めて終わり」では義務を果たしたことにならない
労働安全衛生法は、健康診断で異常の所見があった労働者について、事業者が医師の意見を聴くこと、その意見を踏まえて必要な就業上の措置を講じることを義務づけています。これは従業員50人以上の事業場に限った話ではなく、規模を問わずすべての事業者の義務です。産業医がいない事業場では、地域産業保健センターの医師や、スポット契約の産業医に依頼して意見を聴くことになります。
心電図異常の多くは、経過観察で足りる
健診の心電図でよく見られる所見には、不完全右脚ブロック、軽度のST変化、期外収縮などがあります。これらの多くは治療を要しません。一方で、心房細動、虚血を示す変化、QT延長、WPW症候群など、精査が必要な所見も混ざっています。人事が判断すべきことではなく、健診機関の判定区分(要精査・要治療など)に沿って受診を勧め、その結果を産業医が評価します。
実務上の問題は、要精査と判定されても受診しない人が一定数いることです。会社としては受診勧奨の記録を残し、産業医の面談で受診の必要性を本人に説明する場を持つことが、最も現実的な対処です。
血圧は「数字」だけでなく「持続」を見る
健診時の血圧は緊張で高く出ることがあり、1回の数値だけで判断はできません。ただし、収縮期160mmHg以上または拡張期100mmHg以上であれば、早めに医療機関を受診するよう勧めます。さらに収縮期180mmHg以上または拡張期110mmHg以上の高度の高血圧では、重量物の取り扱いや高所・深夜の業務について、治療が始まるまで一時的な配慮を検討します。それ未満の高血圧は、生活習慣の改善と必要に応じた受診を勧めつつ、通常どおり就業できるのが一般的です。
事後措置の流れ
- 健診結果を受け取り、有所見者を判定区分ごとに整理する
- 要精査・要治療の人に受診を勧め、記録を残す
- 有所見者全員の結果について、健診の日から3か月以内に医師の意見(就業区分と措置内容)を聴き、文書で受け取る
- そのうえで、面談が必要な人と産業医が面談する(精査結果が後から出た場合は、その結果もあわせて確認する)
- 意見に基づいて就業上の措置を決め、本人に説明する
医師の意見(就業判定)は、異常の所見があった方全員について必要です。一方、面談まで必要な人は全有所見者ではありません。判定区分と業務内容から優先順位をつけ、面談は本当に必要な人に絞ることが、現実的な運用のコツです。
循環器専門医が事後措置を行う意味
心電図や血圧の所見をどこまで重く見るかは、循環器の診療経験で判断が変わります。当社では循環器専門医である代表医師が健診結果を直接評価し、必要な面談と意見書の作成を行います。産業医がいない事業場からのスポットのご依頼も、オンラインで対応しています。
よくあるご質問
健康診断で「心電図異常」と出た社員に、会社は何をすればよいですか?
健診機関の判定区分に沿って、要精査なら受診を勧め、結果を踏まえて医師(産業医)の意見を聴きます。有所見者について医師の意見を聴くことは、事業場の規模を問わず事業者の義務です。
産業医がいない50人未満の会社でも、医師の意見聴取は必要ですか?
必要です。産業医の選任義務がなくても、健診の有所見者について医師の意見を聴く義務はすべての事業者にあります。地域産業保健センターや、産業医とのスポット契約で対応できます。
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執筆・監修:黒田 優(精神保健指定医・産業医・総合内科専門医・循環器専門医)。17社の企業・団体の産業医として、メンタルヘルス対応から健診事後措置まで支援しています。

